問い合わせ対応をAIで自動化|72%自己解決したAIエージェント事例と人への引き継ぎ設計
「この問い合わせ、昨日も答えたな」
「また同じ質問が来ている」
カスタマーサポートや社内問い合わせの現場では、こうした場面が少なくありません。
営業時間。
操作方法。
パスワード。
料金。
申請方法。
トラブル時の確認事項。
一つひとつ回答すること自体は難しくありません。
しかし、問い合わせ件数が増えると、それだけで担当者の時間が消えていきます。
そこで最近増えているのが、AIエージェントによる問い合わせ対応です。
ただし、
「AIに問い合わせを全部任せればいい」
という話ではありません。
むしろ実務では、
AIに任せられる問い合わせと、人間が対応すべき問い合わせをどう分けるか
の方が重要です。
実際に、問い合わせの72%をAIだけで自己解決した事例が出ています。
Smarshでは問い合わせの72%をAIだけで解決
Smarshは、金融機関など規制産業向けにコミュニケーションデータ管理サービスを提供している企業です。
同社は顧客サポートへAIエージェント「Archie」を導入しています。
2026年9月に公開された事例によると、2026年第2四半期の405件の顧客セッションのうち、
72%が人間のサポートを必要とせず解決
したとしています。
つまり、
10件問い合わせが来た場合、
約7件はAIだけで対応し、
残り約3件を人が対応する
という状態です。
さらにSmarshでは、顧客向けAIとは別に、サポート担当者を支援するAIも利用しています。
こちらでは、類似案件と比較して1件あたり7時間を超える時間削減につながったと公表されています。
重要なのは、
AIか人間か、どちらか一方を選んでいるわけではない
という点です。
問い合わせ対応は3段階に分けると考えやすい
AIを問い合わせ対応へ導入するときは、業務を3段階に分けると整理しやすくなります。
1. AIがそのまま回答する
最も自動化しやすい領域です。
例えば、
「営業時間は何時ですか?」
「パスワードを変更する方法は?」
「この申請はどこからできますか?」
「この機能の操作方法を教えてください」
といった問い合わせです。
会社側に明確な回答があり、判断がほとんど必要ありません。
こうした問い合わせについては、
質問を受ける
↓
社内FAQやマニュアルを検索
↓
回答を生成
↓
そのまま回答
までAIに任せやすい領域です。
2. AIが回答案を作り、人間が返す
次が、
AIだけでは少し不安だが、ゼロから人が考える必要もない
問い合わせです。
例えば、
「この操作をしたらエラーになりました」
「契約内容を変更したい」
「特殊な使い方をしたい」
といったものです。
AIが、
過去の問い合わせ。
マニュアル。
顧客情報。
契約内容。
などを確認して、
「この回答が適切だと思われます」
と担当者へ回答案を出します。
人間はそれを確認し、必要に応じて修正して送信します。
これだけでも担当者の負担はかなり減ります。
3. 最初から人間へ引き継ぐ
そして3つ目が、
AIに回答させない方がよい問い合わせ
です。
例えば、
- 強いクレーム
- 返金交渉
- 契約条件の変更
- セキュリティ事故
- 個人情報に関する問題
- 法的判断が必要な内容
- 重大な障害
- AIが回答に自信を持てないケース
などです。
この場合は、AIが無理に回答を作るのではなく、
「これは人が対応すべき問い合わせ」
と判断し、担当者へ引き継ぐ方が適切です。
AIエージェント導入で重要なのは、
すべてをAIで解決することではなく、AIが対応すべきでない問い合わせを判断できること
なのです。
注目したいのは「72%」より「残り28%」
AI活用事例を見ると、
「72%自動化」
という数字に目が行きます。
もちろん大きな成果です。
ただ、実務側から見るともっと重要な数字があります。
残り28%です。
この28%には、おそらく、
簡単に答えられない。
顧客固有の事情がある。
追加情報が必要。
専門知識が必要。
人間の判断が必要。
といった問い合わせが含まれます。
AI導入を考えるなら、
「何%自動化できるか」
だけではなく、
「自動化できなかった問い合わせをどう処理するか」
まで設計しなければなりません。
ここを考えずにAIチャットを導入すると、
「AIでは解決できません」
で終わり、
結局お客様がもう一度問い合わせフォームから内容を入力する、
という使いにくい仕組みになってしまいます。
良いAI問い合わせ対応は、人への引き継ぎまで自動化する
例えば、AIが途中まで会話した結果、
「これは担当者対応が必要」
と判断したとします。
そのとき担当者へ、
「お客様から問い合わせがあります」
だけ通知しても十分ではありません。
理想的には、
顧客名
問い合わせ内容
AIとの会話履歴
確認済みの事項
AIが調べた内容
考えられる原因
緊急度
などを整理して渡します。
担当者は最初から聞き直す必要がありません。
つまり、
AI
↓
失敗
↓
人間
ではなく、
AIが情報収集
↓
AIでは判断不可
↓
情報を整理
↓
適切な担当者へ引き継ぎ
↓
人間が判断
という構造にします。
この引き継ぎ部分まで含めてAIエージェントと考えると、問い合わせ業務はかなり変わります。
従来のAIチャットボットとの違い
問い合わせ対応AIというと、以前からチャットボットがありました。
従来型では、
「この質問なら、このFAQを表示する」
という構造が中心でした。
生成AIを使うことで、
質問の意味を理解し、
複数の情報から回答を生成できるようになりました。
さらにAIエージェントになると、
回答するだけではなく、
顧客情報を確認する。
契約状況を調べる。
過去の問い合わせを確認する。
必要な処理を行う。
担当者へケースを作成する。
日程調整する。
といった別の業務へ進めることができます。
実際、Salesforce自身のサポートでも、Agentforceはナレッジをもとに質問へ回答したり、トラブルシューティングを案内したりするだけでなく、対象ケースに応じて担当者との面談日程を調整する仕組みも提供しています。
これが、
「答えるAI」と「問い合わせを処理するAI」の違い
です。
中小企業でも問い合わせAIは導入できる
「AIエージェント」という言葉だけを見ると、大企業向けに感じるかもしれません。
しかし問い合わせ対応は、中小企業でも取り組みやすい分野です。
例えば、
過去の問い合わせメール。
FAQ。
Webサイト。
操作マニュアル。
商品資料。
社内マニュアル。
こうした情報があれば、まず回答支援から始められます。
最初から72%を目指す必要もありません。
例えば問い合わせ100件のうち、
よくある質問30件だけAIが処理できれば、
それだけで人間が対応する問い合わせは30件減ります。
担当者が1件5分使っていれば、
月150分。
問い合わせ件数が多い会社なら、削減効果はさらに大きくなります。
まず「問い合わせ履歴」を見る
問い合わせAIを導入する前におすすめしたいのが、
直近1か月程度の問い合わせを分類すること
です。
例えば100件あったとします。
A:FAQで答えられる
40件。
B:情報を調べれば答えられる
30件。
C:担当者の判断が必要
20件。
D:クレーム・重要案件
10件。
と分かれたとします。
この場合、
最初の40件は自動回答候補。
次の30件はAI回答案+人間確認。
残り30件は人間対応。
という設計ができます。
これだけで、
「AIを導入するとどれくらい効果がありそうか」
かなり現実的に判断できます。
AIを導入する前に、FAQを100個作る必要はない
問い合わせAIを検討すると、
「まずFAQを全部整理しないといけない」
と思うかもしれません。
もちろん整理されている方が理想です。
ただ、必ずしもゼロからFAQを100件作る必要はありません。
過去のメールやチャット履歴に、
「実際にお客様から聞かれた質問」
と、
「実際に担当者が回答した内容」
が残っているなら、それ自体が重要なデータです。
そこから、
頻出質問を抽出する。
似た問い合わせをまとめる。
標準回答を作る。
不足しているマニュアルを発見する。
といったこともAIで支援できます。
つまり、AIを導入するためにナレッジを整理するのではなく、
AIを使いながらナレッジ自体を整理していく
という進め方もできます。
AIには「分からない」と言わせる
問い合わせAIで特に重要なのが、
分からないときに、無理に回答させないこと
です。
生成AIはもっともらしい文章を作れます。
そのため、
情報が足りない。
根拠がない。
対象外の質問。
にも答えてしまう可能性があります。
問い合わせ対応では、
「AIが回答できたか」
だけではなく、
回答する根拠が十分あるか
を見る必要があります。
例えば、
社内ナレッジに根拠がある
→ 回答
情報はあるが条件が曖昧
→ 人間確認
情報がない
→ 回答せずエスカレーション
といったルールです。
AIが賢いことより、
AIが勝手なことをしない仕組み
の方が重要な場面もあります。
AI導入後も人間が必要な理由
問い合わせ業務では、
人間にしかできないこともあります。
怒っているお客様の気持ちを汲み取る。
複雑な事情を聞く。
例外対応を判断する。
社内の別部署と調整する。
契約条件を交渉する。
こうした仕事です。
AIによって単純な問い合わせを減らすことで、
人間はこうした、
人間が対応すべき問い合わせへ時間を使える
ようになります。
Smarshも、AIによって通常の問い合わせを処理することで、人間の担当者が専門知識や判断が必要な複雑案件へ時間を使えることを成果の一つとして挙げています。
これは問い合わせAIの非常に重要な考え方だと思います。
「人を減らす」ではなく「人へ渡す問い合わせを減らす」
問い合わせAIの話をすると、
「サポート担当を減らせる」
という話になりがちです。
しかし、中小企業ではむしろ、
問い合わせ担当者が、
営業を兼務している。
事務を兼務している。
技術担当が問い合わせ対応までしている。
ということの方が多いのではないでしょうか。
そうした会社では、
AIによって問い合わせの一部を処理することで、
本来の仕事へ戻れるようになります。
目的は、
人をなくすことではなく、人が対応しなくてもよい問い合わせをなくすこと
です。
自社では何%をAI化できそうか?
問い合わせ業務がある会社なら、一度、
直近1か月の問い合わせを見てみるのがおすすめです。
その中で、
「同じ回答を何度もしている」
「マニュアルを見れば答えられる」
「毎回同じ確認をしている」
という問い合わせがどれくらいあるでしょうか。
それが20%なのか。
50%なのか。
70%なのか。
会社によって大きく違います。
重要なのは、
「AIチャットボットを導入する」
ことから考えるのではなく、
自社の問い合わせのうち、何件を人間が対応しなくてもよくできるか
から考えることです。
業務改善セルフチェックでは、現在の問い合わせ業務がAI化やシステム化に向いているか、8つの質問から簡易的に確認できます。
また、
「過去1か月分の問い合わせ履歴を見ながら、自動回答/回答支援/人対応に分類してみたい」
「現在のWebサイトや社内資料を使うと、どこまでAIで回答できそうか知りたい」
という場合は、30分のオンライン相談で現在の業務から整理することも可能です。
参考
Smarsh
「Smarsh Scales Salesforce’s Agentforce After Delivering Strong Customer Support Results」
2026年9月3日公開。
2026年第2四半期の405件の顧客セッションのうち72%をAIのみで解決し、社内サポート支援AIでは1件あたり7時間を超える削減効果が報告されています。