介護のシフト調整をAIで効率化|急な欠勤対応を80%削減したAIエージェント事例
介護施設や福祉施設で大変な仕事の一つが、急な欠勤への対応ではないでしょうか。
朝になって、
「体調不良で今日出勤できません」
と連絡が入る。
すると管理者は、
今日出勤できそうな職員を探す。
資格や担当業務を確認する。
一人ずつ電話やLINEをする。
返事を待つ。
別の人にも連絡する。
勤務時間や人員配置を確認する。
最終的にシフトを変更する。
という対応に追われます。
一人の欠勤に対して何人もの職員へ連絡することもあります。
しかも、欠勤は予定通りには発生しません。
勤務開始直前。
休日。
夜間。
管理者が別の業務をしている最中。
突然発生します。
こうした、
「誰か出られる人はいませんか?」を探し続ける仕事
をAIエージェントに任せる事例が出てきています。
Wellstarでは欠員対応にかかる時間を80%以上削減
米国ジョージア州で医療サービスを提供するWellstar Health Systemでは、11の病院でAIエージェントを活用したシフト調整を導入しています。
利用しているのは「Swift Scheduling Copilot」と呼ばれる、SMSを中心に職員とのシフト調整を行うAIエージェントです。
従来、急な欠勤が発生すると、管理者が手作業で、
- 出勤可能な職員を探す
- 一人ずつ連絡する
- 返答を待つ
- 資格を確認する
- 勤務条件を確認する
- 社内ルールに違反しないか確認する
といった対応を行っていました。
Wellstarの看護管理者は、
欠員が出た際に、職員へ手作業でメッセージを送り、返事を待ちながら資格やルールを確認していた
と説明しています。
そこでAIエージェントを導入し、
欠員発生
↓
勤務可能な候補者を抽出
↓
AIが候補者へ連絡
↓
返答を管理
↓
条件確認
↓
必要な場合だけ管理者へ承認依頼
という流れへ変更しました。
その結果、
欠員候補を探し、連絡するために管理者が使っていた時間を平均80%以上削減。
さらに、Open Needs機能を利用する部門では、
シフト充足率が33%向上
したとしています。
AIが勝手にシフトを決めるわけではない
ここは非常に重要です。
AIシフト作成というと、
「AIが全部勝手にシフトを組む」
というイメージを持つかもしれません。
今回の仕組みは少し違います。
AIが担当しているのは主に、
調整作業
です。
例えば、
誰が出勤できる可能性があるか。
誰が必要な資格を持っているか。
誰なら勤務ルールに違反しないか。
誰から連絡した方が交代してもらえる可能性が高いか。
といった情報を確認します。
そのうえで、
職員へSMSを送る。
返事を受け取る。
別の候補へ連絡する。
といった連絡業務を進めます。
そして、
承認が必要なところだけ管理者へ戻す
という設計です。
Wellstarの事例でも、AIは既存のシフト管理システムと連携しながら、資格、役割、労務ルールなどを確認し、管理者が最終的な判断権限を持つ設計になっています。
つまり、
AIが管理者を置き換えるのではなく、
管理者が判断する前の面倒な調整をAIに任せる
という考え方です。
介護施設でも似た業務は多い
今回の事例は病院ですが、業務構造を見ると介護施設にもかなり近いものがあります。
例えば介護施設では、
「介護福祉士が必要」
「夜勤経験者が必要」
「看護職員が必要」
「この時間帯は最低○人必要」
「連続勤務になってはいけない」
「希望休と重なっている」
など、単純に、
空いている人を入れればいい
というわけではありません。
人員配置。
資格。
勤務時間。
労務ルール。
本人の希望。
こうした条件を確認する必要があります。
だからこそ、
条件を確認しながら候補者を探す
という仕事はAIエージェントと相性があります。
例えば介護施設ならこう動く
例えば、朝7時に職員から、
体調不良で今日の9時〜18時の勤務が難しいです。
と連絡が来たとします。
従来なら管理者がシフト表を開きます。
AIエージェントを使う場合は、例えば次のような流れです。
1. 欠勤内容を理解する
AIが、
- 欠勤する職員
- 勤務時間
- 担当業務
- 必要資格
を確認します。
2. 候補者を探す
シフトデータから、
- 今日は休み
- 希望勤務時間に合う
- 必要資格を持つ
- 連続勤務にならない
- 労働時間上限を超えない
といった条件を満たす職員を抽出します。
3. 優先順位をつける
例えば、
「過去にこの時間帯の勤務経験がある」
「今回の勤務を追加しても労働時間に余裕がある」
などを見て、候補者を優先します。
4. AIが連絡する
AIが、
本日9:00〜18:00の勤務に入ることは可能ですか?
と候補者へ順番に連絡します。
一人が断ったら、
次の候補へ連絡。
これを自動で進めます。
5. 管理者へ結果を通知する
例えば、
Aさんが勤務可能です。
必要資格:介護福祉士
連続勤務:問題なし
週勤務時間:上限以内
といった形で提示します。
管理者が確認して承認。
これでシフト変更を確定します。
一番時間がかかるのは「判断」より「連絡」
欠勤対応を考えると、
「誰を入れるか判断する仕事」
が大変に見えます。
しかし実際には、
電話する。
LINEする。
返信を待つ。
返ってこなければ別の人に連絡する。
条件を確認する。
また連絡する。
という、
細かい調整作業
にもかなり時間が取られています。
WellstarのAIエージェントも、
管理者の判断そのものを自動化することより、
調整の負担をなくすこと
を目的として設計されています。
同社の責任者も、AIで判断を自動化すること自体が目的ではなく、
リーダーが調整ではなく判断へ集中できるようにする
という考え方を示しています。
これは介護施設でも重要な考え方です。
管理者には、
利用者対応。
職員教育。
家族対応。
現場フォロー。
事故対応。
など、本来優先すべき仕事があります。
欠勤が出るたびに一時間近く職員へ連絡していたら、その時間はすべて削られます。
月間シフト全部をAIに作らせなくてもいい
介護DXでよくあるテーマが、
AIシフト作成
です。
スタッフの希望休。
資格。
人員配置。
勤務時間。
夜勤回数。
こうした条件から月間シフトを自動作成する仕組みです。
もちろん、それも有効です。
ただ、
最初から月間シフト全部をAI化する必要はありません。
今回のように、
「急な欠勤が出たときだけAIに調整してもらう」
方が導入効果を理解しやすいケースもあります。
例えば、
月に10回急な欠勤がある。
1回の調整に管理者が30分使う。
とします。
月5時間。
年間60時間です。
もし毎回1時間かかっているなら、
年間120時間です。
まず、この部分だけ減らす。
そこから、
シフト交換。
希望休調整。
追加勤務募集。
月間シフト作成。
へ広げることもできます。
普通のシフト管理システムとの違い
普通のシフト管理システムでも、
勤務表を作る。
空きシフトを登録する。
職員が勤務希望を登録する。
といった機能があります。
Microsoft TeamsのShiftsでも、管理者がOpen Shiftを登録し、職員が希望を出す仕組みがあります。
AIエージェントになると、その先に進みます。
例えば、
普通のシステム
空いているシフトがあります。
と表示する。
一方、
AIエージェント
今日の欠員を埋められる職員は誰か?
を判断し、
資格と勤務条件を確認し、
候補者へ順番に連絡し、
返事を管理し、
承認が必要なところだけ人へ戻す。
という動きができます。
つまり、
シフトを管理するツールから、シフト調整を進めるツールへ
変わります。
AIには「条件」を守らせる必要がある
シフト調整は、
誰でも空いている人を入れればいい
というものではありません。
特に介護や医療では、
資格。
配置基準。
夜勤回数。
連続勤務。
労働時間。
など、安全や法令に関係する条件があります。
そのため、
AIが自由に考えてシフトを決める
という設計は適切ではありません。
例えば、
システム側で必ず守る
- 資格条件
- 勤務時間上限
- 連続勤務制限
- 最低人員配置
- 希望休
AIが支援する
- 候補者選定
- 優先順位
- 連絡
- 返信管理
- 状況整理
人間が判断する
- 最終配置
- 例外対応
- 職員事情への配慮
- 現場状況を踏まえた変更
という役割分担が考えられます。
AIへ何でも任せるより、
AIが触ってよい範囲を最初に決める
ことが重要です。
LINEやSMSのような普段の連絡手段とつなぐ考え方もある
Wellstarの事例で面白いのが、
スタッフが新しい複雑なシステムを操作するのではなく、
主にSMSでAIとやり取りする
という点です。
AIが便利でも、
「全員、新しいアプリを入れてください」
「この管理画面を毎日確認してください」
となると定着しない可能性があります。
現場では、
普段使っているスマートフォン。
チャット。
SMS。
などから利用できる方が自然です。
介護施設であれば、情報管理上のルールに十分配慮しながら、
職員が使いやすい入口を作る
という視点も必要でしょう。
中小規模の介護施設でもできる?
Wellstarは11病院を展開する大規模医療機関です。
そのため、
「うちには大きすぎる事例」
と感じるかもしれません。
ただし、中小規模の施設であれば、もっと小さくできます。
例えば最初は、
シフト表:Excel
職員情報:Excel
連絡:既存チャット
でも、
「欠員が出たら、条件に合う候補者を抽出する」
ところだけ自動化できます。
次に、
候補者へのメッセージ案作成。
さらに、
一斉・順次連絡。
返信内容の整理。
まで広げる。
つまり、
既存のシフトシステムを全部入れ替えなくても始められる可能性がある
ということです。
AIエージェントが向いている施設
例えば次のような施設です。
- 急な欠勤が多い
- 管理者が職員へ毎回個別連絡している
- シフト調整に毎月何時間も使っている
- 有資格者の配置確認が必要
- 複数施設間で応援勤務がある
- パート・非常勤職員が多い
- シフト変更の連絡漏れが起きる
- 管理者しか勤務条件を把握していない
一方で、
職員数が非常に少ない。
シフト変更がほとんどない。
電話一本ですぐ調整できる。
という施設なら、大きなAIシステムを導入する必要はないでしょう。
「AIシフト」ではなく「調整時間」を見る
AI導入を検討するときは、
「AIでシフトを作れるか?」
から考えるより、
今、シフト調整に何時間使っているか
を見る方が分かりやすいです。
例えば、
1回の欠勤対応:40分
月15回発生。
40分 × 15回
=600分。
月10時間です。
年間120時間。
さらに複数の管理者が関わっていれば、もっと増えます。
この時間を、
半分。
あるいは80%。
減らせる可能性があるなら、導入を検討する価値があります。
逆に年間数時間しか発生しないなら、AIを作る必要はないかもしれません。
重要なのは、
AIを入れることではなく、減らしたい仕事が本当にあるか
です。
人を減らすのではなく、管理者を現場へ戻す
介護業界でAIの話をすると、
「人手不足だから人を減らすためのAI」
という印象を持たれることがあります。
しかし、今回の事例は少し違います。
AIによって減らしているのは、
職員そのものではありません。
電話。
SMS。
候補者探し。
返答待ち。
資格確認。
といった管理業務です。
その結果、管理者が、
職員のフォロー。
利用者への対応。
新人教育。
現場確認。
といった、本来やるべき仕事へ時間を使えるようになります。
Wellstarでも、AIによってシフト調整の割り込みを減らし、管理者がスタッフ支援や患者ケアへ集中できることを大きな成果として挙げています。
介護現場にAIを入れるなら、
人を減らすAIではなく、人が人に向き合う時間を増やすAI
という考え方が重要ではないでしょうか。
自社のシフト調整もAI化できる?
介護施設で、
「欠勤が出るたびに管理者がLINEを送っている」
「誰が勤務できるのか探すだけで時間がかかる」
「資格や勤務時間を確認しながら一人ずつ調整している」
という状態なら、AI化できる可能性があります。
ただし、
必ずしもAIエージェントを新しく開発する必要はありません。
既存のシフト管理サービス。
チャットツール。
Excel。
簡単な自動化。
で解決できるケースもあります。
重要なのは、
現在のシフト調整業務を分解し、どの部分に一番時間がかかっているか確認すること
です。
まずは業務改善セルフチェックで、現在の業務がAIやシステム化に向いているか確認してみてください。
また、
「現在使っているシフト表のままでどこまで自動化できるか」
「資格条件や勤務ルールをどうAIに持たせるか」
「職員への連絡だけAI化したい」
といったところから考えたい場合は、30分のオンライン相談で現在の業務フローから整理することもできます。
参考事例
Microsoft Customer Stories
「Wellstar cuts shift-fill effort more than 80% using Swift, built on Azure AI」
2026年8月28日公開。
Wellstar Health Systemでは、Swift Scheduling Copilotを11病院へ導入。
AIエージェントが既存のシフト管理システムと連携し、資格・職種・労務ルールなどをもとに勤務候補者を選定。SMSを使った候補者への連絡や返答管理を自動化し、必要な場合のみ管理者へ承認を戻す仕組みを構築しています。
その結果、管理者が欠員候補の探索・連絡に使う時間を平均80%以上削減し、Open Needs機能を利用する部門ではシフト充足率が33%向上したと報告されています。