新人研修をしていて、少し不思議なことがありました。
ある会社では、研修中のAI利用が禁止。すると、質問がたくさん出る。隣の人と相談する。講師にも聞く。画面を見せながら、「ここが分かりません」と言ってくれる。
一方、別の会社では、AI利用が許可されていました。すると、作業は速い。コードもどんどん進む。でも、質問がほとんど出ない。
これは、成長しているということなのか。それとも、分からないことが見えなくなっているだけなのか。
今回は、AI時代の新人研修で本当に育てるべき力について考えます。
① AI禁止の会社と、AI許可の会社
カナちゃん
テイル先輩、これ、けっこう考えさせられますね。
カナちゃん
AI禁止の会社では質問が多くて、AI許可の会社では質問が少ない。
ハヤテ君
でもそれって、AI許可の会社の方が優秀ってことじゃないっすか?
ハヤテ君
自分で調べて、自分で解決してるわけでしょ?
テイル先輩
お、いい見方だね。
テイル先輩
たしかに、表面だけ見るとそう見える。質問が少ない。作業が速い。成果物もできている。だから「自走できている」と見える。
カナちゃん
でも、実際にはそう単純じゃなかったんですよね?
テイル先輩
そう。コードは動いている。でも、「この処理は何をしていますか?」と聞くと、説明が止まることがある。
ハヤテ君
あー……。
ハヤテ君
それ、僕もたまにあります。AIに聞いたら動いたけど、細かいところは……まあ、動いてるし、いいかなって。
エージェント
完璧です!コードは正常に動作しています!
カナちゃん
いや、そこが怖いんですよ。
テイル先輩
そうなんだよね。動いていることと、理解していることは、似ているけど違う。特に新人研修では、ここを分けて見ないといけない。
② 質問が多いことは、悪いことなのか
ハヤテ君
でも、新人研修で質問が多いって、講師側からすると大変じゃないっすか?進行も止まるし。
テイル先輩
大変ではあるね。でも、質問が出るということは、分からない場所が表に出ているということでもある。
カナちゃん
なるほど。質問があるから、講師も「ここで詰まっているんだ」と分かる。
テイル先輩
そう。たとえば、フォームを作る課題があったとする。AI禁止の環境だと、こういう質問が出る。
テイル先輩
「バリデーションって、フロント側とサーバー側のどっちに書くんですか?」「このエラーは、型の問題ですか?データの問題ですか?」「なぜここで非同期処理が必要なんですか?」
テイル先輩
こういう質問は、ただ答えを求めているだけじゃない。頭の中で、理解の地図を作ろうとしているサインなんだよね。
カナちゃん
質問すること自体が、学習になっている。
テイル先輩
うん。しかも、人に質問するときは、自分の状況を言葉にしないといけない。「何をやりたいのか」「何を試したのか」「どこで止まっているのか」これを整理するだけでも、かなり力がつく。
ハヤテ君
たしかに。質問しようと思って説明しているうちに、「あ、自分ここ分かってないな」って気づくことありますね。
テイル先輩
それが大事。質問は、単に答えをもらう行為じゃない。自分の理解を外に出す行為でもある。
③ AIに聞くと、質問が消える
カナちゃん
一方で、AI許可の会社では、その質問がAIに吸収されてしまう。
テイル先輩
そう。もちろん、AIに聞くこと自体は悪くない。むしろ、今の時代は自然なことだと思う。分からない単語を聞く。エラーの意味を聞く。コード例を出してもらう。これはとても便利。
ハヤテ君
ですよね。僕だったら、エラー文をそのまま貼って、「原因と直し方を教えて」って聞きます。
エージェント
原因は3つ考えられます!1つ目、インポート漏れ。2つ目、型定義の不一致。3つ目、環境変数の設定ミスです!
ハヤテ君
ほら、便利!
カナちゃん
便利なんですけど……。そこで解決した気になって、人に聞かなくなる。
テイル先輩
そうなんだよね。AIは、質問の受け皿として優秀すぎる。怒らない。何度聞いても答えてくれる。初歩的な質問でも恥ずかしくない。だから、新人にとっては本当にありがたい。
テイル先輩
でもその一方で、周りから見ると、何に悩んでいるのかが見えなくなる。
カナちゃん
講師からすると、分からないところが隠れてしまうんですね。
テイル先輩
うん。質問が減ったから理解が進んでいる、とは限らない。ただ、疑問が人間の場に出てこなくなっただけかもしれない。
ハヤテ君
うわ、それ怖いっすね。「静かな研修」って、実は危ない場合もあるのか。
テイル先輩
もちろん、本当に理解して静かな人もいる。だから、静かだから悪いとは言えない。でも、AI許可の研修では、理解しているかどうかを確認する仕組みが必要になる。
④ スピードは本当に武器
ハヤテ君
でも先輩、AI許可の方が速いのは事実ですよね?
テイル先輩
それは間違いない。AIをうまく使えば、調べる時間は短くなる。サンプルコードもすぐ出る。エラーの候補も出る。実装の方向性も見える。
カナちゃん
そこは否定しない方がいいですよね。AIを使うと速くなる、というのは本当。
テイル先輩
うん。ここで大事なのは、スピードを悪者にしないこと。ハヤテ君みたいに「まず動かしてみる」という姿勢は、開発ではかなり大事なんだ。
ハヤテ君
お、褒められた!
テイル先輩
ただし、速く作った後に、立ち止まって説明できるか。そこが分かれ道になる。
ハヤテ君
動いた。終わり。じゃなくて?
テイル先輩
そう。動いた。では、なぜ動いたのか。別の書き方はあるのか。このコードはどこが危ないのか。保守しやすいのか。エラー時はどうなるのか。セキュリティ上の問題はないのか。
テイル先輩
そこまで考えて、初めてスピードが実力に変わっていく。
カナちゃん
AIで速く作ることと、理解することはセットにしないといけないんですね。
⑤ AI禁止なら安心、でもない
カナちゃん
ただ、AI禁止の会社の方が質問も多くて、自分たちで作っている感じがあったんですよね。それなら、AI禁止の方が研修としては良いんでしょうか?
テイル先輩
そこも、単純には言えない。AI禁止でも、検索結果をコピーして動かしているだけなら、理解が浅いことはある。
ハヤテ君
あー、昔からあるやつですね。検索して、記事を見つけて、コードをコピーして、動いたらOK。
テイル先輩
そう。AIが出る前から、これはずっとあった。「AIコピペ」が危ないのではなく、そもそも「分からないままコピペ」が危ない。
カナちゃん
つまり、AI禁止にしても、Google検索コピペになるだけかもしれない。
テイル先輩
そう。しかも今は、検索結果そのものにAIの回答が表示されることも増えている。だから、完全にAIを禁止するのはだんだん難しくなっている。
ハヤテ君
たしかに。検索しているだけのつもりでも、AIの要約を見ていることありますね。
テイル先輩
だから、現実的には「AIを使わせない」よりも、「AIを使った後に、どう理解させるか」を設計する方が大事になる。
⑥ コミュニケーション力としては、どちらが育つのか
カナちゃん
最初の問いに戻ると、コミュニケーション力としては、AI禁止の会社の方が育っているように見えます。
テイル先輩
少なくとも、質問する力、相談する力、自分の状況を説明する力は、AI禁止の環境の方が表に出やすいと思う。
ハヤテ君
AI許可だと、自分の中だけで完結しちゃう。
テイル先輩
そう。AIとの会話は増えるけど、人間との会話は減る可能性がある。これはけっこう大きい。
カナちゃん
でも、実務では人間との会話が必要ですよね。仕様確認、進捗報告、レビュー、相談、トラブル報告。
テイル先輩
まさに。エンジニアの仕事は、コードを書くことだけじゃない。「何を作るべきか」を確認する。「なぜこの実装にしたか」を説明する。「ここはリスクがあります」と伝える。こういう力が必要になる。
ハヤテ君
AIに質問するのが上手くても、人間に説明できないと、チーム開発では困る。
テイル先輩
そうだね。AI時代のコミュニケーション力は、たぶん少し変わる。ただ話せることではなく、AIから得た情報を、自分の判断として説明できること。これが大事になる。
⑦ スキルとしては、どちらが身についているのか
カナちゃん
では、実際のスキルとしてはどうなんでしょう?AI禁止の方が身についているのか、AI許可の方が身についているのか。
テイル先輩
これも、成果物だけでは判断できない。AI許可の方が早く完成するかもしれない。でも、それが本人のスキルになっているかは別問題。
ハヤテ君
完成したコードを見ても、本人が分かっているかは分からない。
テイル先輩
そう。だから研修では、成果物に加えて、説明を見ないといけない。
カナちゃん
たとえば?
テイル先輩
たとえば、こう聞く。
テイル先輩
「このコードで一番大事な処理はどこですか?」「この関数の入力と出力は何ですか?」「ここでエラーが起きたらどうなりますか?」「AIに出してもらった案のうち、なぜこれを選びましたか?」「この実装の弱点は何ですか?」「別の方法で書くなら、どうしますか?」
ハヤテ君
うっ。動かすだけならいけるけど、それ聞かれると一気に実力が出ますね。
テイル先輩
そう。でも、これは責めるためじゃない。自分の理解を深めるための問いなんだ。
カナちゃん
AI許可でも、この問いがあるなら学びになりそうです。
テイル先輩
うん。AIを使って速く進む。その後で、自分の言葉で説明する。このセットなら、AIはかなり良い学習補助になる。
⑧ 新人研修で使えるルール
ハヤテ君
じゃあ、研修でAIを許可するなら、どんなルールがいいんですか?
テイル先輩
おすすめは、「AIを使っていい。ただし、説明責任を持つ」というルール。
カナちゃん
説明責任。
テイル先輩
そう。たとえば、課題提出時に次の5つをセットで出してもらう。
テイル先輩
1つ目。AIに何を聞いたか。2つ目。AIの回答のどこを採用したか。3つ目。採用しなかった案は何か。4つ目。自分で修正した箇所はどこか。5つ目。このコードの不安な点はどこか。
ハヤテ君
「不安な点」も書くんですか?
テイル先輩
書く。むしろ、ここが大事。自分のコードを見て「ここが怪しいです」と言える人は、かなり成長する。
カナちゃん
分かったふりをしない練習ですね。
テイル先輩
そう。AI時代は、分かったふりがしやすい。だからこそ、「何が分かっていて、何が分かっていないか」を言える力が大事になる。
エージェント
私はすべて分かっています!
ハヤテ君
それが一番怪しいんだよなあ。
⑨ AI禁止か、AI許可か、ではない
カナちゃん
今日の話を聞くと、AI禁止とAI許可、どちらが正解かというより、研修の設計が大事なんですね。
テイル先輩
その通り。AI禁止にも良さがある。質問が表に出る。人と相談する。自分で考える時間が増える。
テイル先輩
AI許可にも良さがある。スピードが出る。試行錯誤しやすい。エラーで止まり続ける時間を減らせる。
テイル先輩
でも、どちらにも落とし穴がある。
ハヤテ君
AI禁止でも、検索コピペなら理解は浅い。AI許可でも、AI丸投げなら理解は浅い。
テイル先輩
そう。だから本当の問題は、AIを使ったかどうかではない。自分の頭で意味づけしたかどうか。自分の言葉で説明できるかどうか。
カナちゃん
研修で育てたいのは、AIを使わない人ではなく、AIを使っても考え続けられる人。
テイル先輩
いいまとめだね。
今日のまとめ
AIを許可したら、新人の質問が消えた。これは、成長のサインかもしれません。でも、疑問が見えなくなっただけかもしれません。
AIを禁止すれば、質問は増えるかもしれない。でも、検索結果をコピーしているだけなら、理解しているとは限りません。
大事なのは、AIを使うかどうかではなく、AIの答えを、自分の理解に変換できているか。
コードが動いた。そこで終わらせない。なぜ動いたのか。どこが危ないのか。別の方法はないのか。自分は何を分かっていて、何を分かっていないのか。
AIを使う新人が危ないのではありません。AIの答えを、自分の言葉で説明する場がない研修が危ないのです。
AI時代の新人研修で育てるべき力。それは、AIを使わない力ではなく、AIを使っても、考えることを手放さない力なのかもしれません。
テイル先輩
ということで今回は、AI禁止の新人研修と、AI許可の新人研修で見えた違いについて話しました。
カナちゃん
質問が少ないから理解している、とは限らない。これはかなり大事ですね。
ハヤテ君
僕もこれからは、AIに聞いて終わりじゃなくて、「なんでこのコードになったんだっけ?」って説明できるようにします。
エージェント
説明も完璧です!
ハヤテ君
いや、そこは僕がやるから!
テイル先輩
AIに任せるところと、自分で引き受けるところ。その境目を考えるのが、これからの学び方なんだと思います。
この番組では、AIが当たり前の世界で、つくる・はたらく・そだてる人の追い風になる話をお届けしています。
それでは、また次回。あなたのつくる、はたらく、そだてるに、よい追い風が吹きますように。