青木 亮宏 製造業

製造業の問い合わせ対応をAIエージェント化するとどうなる?年間2,400時間を削減した海外事例

製造業では、問い合わせ対応に想像以上の時間が使われています。

「この社内ルールはどこに書いてある?」
「この製品の仕様を確認したい」
「この注文はいまどの状態?」
「この部品についての資料はどこ?」
「この手続きは誰に聞けばいい?」

一つひとつは数分で終わる問い合わせでも、会社全体では大きな時間になります。

しかも、回答する側も毎回ゼロから調べているとは限りません。

多くの場合、

  • 社内ポータルを探す
  • PDFを開く
  • Word資料を読む
  • SharePointを検索する
  • Excelを確認する
  • 担当部署へ聞く
  • 過去の問い合わせを探す

といった作業を繰り返しています。

この問い合わせ対応をAIエージェントで効率化し、年間約2,400時間を削減している製造業の事例があります。

米国の製造企業Regal Rexnordです。

海外事例:月2,000件以上の社内問い合わせをAIが処理

Regal Rexnordは、空調設備、モーション制御、動力伝達、発電関連などの製品を扱うグローバルメーカーです。

同社では社内向けAIエージェント「RRX GPT」を構築しました。

目的は、

社員が社内ルールや各種情報を探す時間を減らすこと

です。

従来は、社員が必要な情報を探すために複数の社内サイトや資料を確認する必要がありました。

そこでAIエージェントから質問できるようにしました。

現在、このエージェントは月2,000件以上の問い合わせを処理しています。

Microsoftが公開している事例では、この仕組みによって年間約2,400時間が削減されたとしています。

元記事:

Microsoft Customer Stories
「Regal Rexnord goes all in with Microsoft Copilot Studio to streamline operational efficiency and support customers」

https://www.microsoft.com/en/customers/story/26197-regal-rexnord-microsoft-copilot-studio

最初からうまくいったわけではない

この事例で興味深いのは、

最初に作ったAIが十分な性能ではなかった

という点です。

Regal Rexnordは当初、別のプラットフォームで社内向けAIエージェントを構築していました。

しかし、社内の情報源との接続が限定的で、社員からの質問に答えられた割合は約40%でした。

つまり、

AIモデル自体が高性能でも、

必要な情報へアクセスできなければ役に立たない

ということです。

その後、Microsoft Copilot Studioへ移行。

SharePointやMicrosoft 365上の情報へ直接アクセスできるようにし、WordやPDFなどの文書処理も改善しました。

その結果、社内での利用が拡大しています。

製造業では「AIの性能」より「どこを検索できるか」が重要

AI導入というと、

「GPTのどのモデルを使うか」
「ClaudeとGeminiではどちらがいいか」

という話になりがちです。

もちろんモデル選択も重要ですが、社内問い合わせではそれ以上に、

AIがどの情報へアクセスできるか

が重要です。

例えば製造業なら、

  • 製品仕様書
  • 作業手順書
  • 品質マニュアル
  • 社内規定
  • 就業規則
  • 安全衛生資料
  • 過去のトラブル事例
  • Excel管理表
  • FAQ
  • 社内ポータル
  • 顧客対応履歴

などがあります。

AIがこれらを横断して探せるようになると、

「どの資料に答えがあるかを探す」

という作業そのものを減らせます。

実際にはどんな業務フローになるのか

例えば、製造現場の社員が、

「この部品を交換するときの注意点は?」

と質問したとします。

従来であれば、

  1. 社内ポータルを開く
  2. 製品名を検索
  3. マニュアルPDFを探す
  4. 80ページの資料から該当箇所を探す
  5. 不安なら詳しい担当者に聞く

という流れになります。

AIエージェントであれば、

  1. 社員が質問
  2. AIが関連資料を検索
  3. 該当箇所を抽出
  4. 要点を整理
  5. 回答と参照元を提示

という形にできます。

ここで重要なのが、

AIが勝手に知識を作るのではなく、社内資料を探して答える

という点です。

顧客問い合わせにもAIエージェントを展開

Regal Rexnordでは、社内向けだけではなく、顧客向けAIエージェント「RRXy」も展開しています。

このエージェントは同社のWebサイトに設置され、

  • 製品仕様
  • 製品ドキュメント
  • 動画
  • 社内ナレッジ

などを参照して回答します。

さらにSalesforceとも接続されています。

そのため、

「注文はいまどこまで進んでいますか?」

といった問い合わせに対して、注文ステータスを返すこともできます。

これは普通のFAQチャットとは大きく異なります。

一般的なFAQチャットは、

「登録してある質問に答える」

ところまでです。

一方、AIエージェントは、

必要に応じてシステムへ情報を取りに行く

ことができます。

AIエージェントと普通のチャットボットの違い

例えば顧客が、

「注文番号12345はいつ届きますか?」

と質問したとします。

FAQ型チャットボットなら、

「配送には通常3〜5営業日かかります」

と回答する程度です。

AIエージェントなら、

注文番号を確認

Salesforceなどから注文情報取得

出荷状況確認

必要な情報を顧客へ回答

という流れが可能です。

つまり、

質問に答えるAIから、業務システムを使って調べるAIへ進化する

わけです。

分からない問い合わせは人へ引き継ぐ

AIですべてを解決する必要はありません。

Regal Rexnordの顧客向けエージェントでは、AIで対応できない問い合わせの場合、人間のカスタマーサービス担当者へ会話を引き継げる仕組みになっています。

重要なのは、

「AIか人間か」

ではなく、

AIで済むものはAI、人間が必要なものだけ人間

という分担です。

例えば、

AI向き

  • 製品仕様
  • マニュアル検索
  • 営業時間
  • 注文状況
  • 手続き案内
  • よくある問い合わせ

人間向き

  • 特注案件
  • クレーム
  • 価格交渉
  • 技術判断
  • 契約変更
  • 事故や重大トラブル

といった分け方です。

人間の問い合わせ担当者にもAIを付ける

Regal Rexnordでは、顧客向けAIだけでなく、

カスタマーサービス担当者自身を支援するAI

も導入しています。

500人以上の担当者が利用しており、電話やチャット対応中に、

  • 製品情報
  • 社内手続き
  • 業務プロセス

などをすぐ検索できます。

これによって、

「いったん確認して折り返します」

という対応が減りました。

Microsoftの事例では、担当者の生産性が約12%改善したとされています。

つまり問い合わせ対応では、

顧客

AI

必要なら人

人もAIを使う

という二段構えができます。

製造業ではExcelも重要な情報源になる

この事例で特に参考になるのがExcelへの対応です。

製造業では、

「必要な情報がExcelに入っている」

というケースが非常に多くあります。

しかも、

  • 複数シート
  • 複雑な表
  • セル結合
  • 独自フォーマット
  • 長年継ぎ足された管理表

というケースも珍しくありません。

Regal Rexnordでも、複数タブを持つExcelファイルをそのままAIに読ませるのが難しい問題がありました。

そこで、

Excel

データ抽出

CSVへ構造化

Azure Blob Storageへ保存

Azure AI Searchで検索可能にする

という処理を構築しています。

これはかなり重要なポイントです。

AIを導入したからといって、

汚いデータが自動的にきれいになるわけではありません。

場合によっては、

「AIを入れる前に、AIが読める形へ情報を整理する」

必要があります。

日本の中小製造業ならどう応用できるか

Regal Rexnordは大企業ですが、仕組みそのものは中小企業でも応用できます。

最初から500個のAIエージェントを作る必要はありません。

まずは問い合わせが多い業務を1つ選びます。

例えば、

社内問い合わせ

「有給申請はどうする?」
「経費精算のルールは?」
「この機械のマニュアルは?」
「この製品の仕様書は?」
「この不具合の過去事例は?」

顧客問い合わせ

「製品仕様を教えて」
「取扱説明書がほしい」
「この部品は対応している?」
「納期は?」
「注文状況は?」

このどれか一つから始めれば十分です。

小さく始めるなら3段階

ステップ1:AI検索

まずは、

PDF、Word、ExcelなどをAIが検索できるようにします。

人間が質問すると、関連資料を探して回答する。

ここではまだシステム操作はさせません。

ステップ2:問い合わせ対応

次に、

  • 社内チャット
  • Webサイト
  • Teams
  • Slack

などから質問できるようにします。

よくある問い合わせの一次対応をAIへ移します。

ステップ3:業務システム連携

さらに、

  • Salesforce
  • kintone
  • 販売管理
  • 在庫管理
  • 基幹システム
  • 自社システム

などと接続します。

そうすると、

「この注文どうなってる?」

という質問に、AIが実際のデータを調べて答えられるようになります。

この段階になると、

チャットボットではなくAIエージェント

と呼びやすくなります。

AI導入前に確認したい3つのこと

問い合わせ対応AIを検討するときは、まず次の3点を見ると分かりやすいです。

1. 同じ問い合わせが何度も来ているか

同じ人が毎回回答しているのであれば、自動化の余地があります。

2. 答えがどこかに書かれているか

マニュアル、PDF、Excel、社内Wikiなどに答えがある場合、AIとの相性が良いです。

逆に、

「ベテラン社員の頭の中にしかない」

状態では、まずナレッジ化が必要です。

3. 問い合わせ後にシステム操作が発生するか

例えば、

「注文状況を教えて」

という質問のあとに、

人が販売管理システムを開いて検索している。

ここまでAIへ任せられると、大きな効率化につながります。

情報セキュリティと権限管理は必須

社内AIでは、

「誰でもすべての情報を検索できる」

状態にしてはいけません。

例えば、

  • 人事情報
  • 給与
  • 契約
  • 経営資料
  • 顧客情報
  • 原価
  • 機密設計

などはアクセス制御が必要です。

Regal Rexnordでも、HR、法務、財務などの機密性が高い領域は分離した環境で管理しています。

AIを導入するときは、

元システムのアクセス権をAIにも引き継ぐ

という考え方が重要です。

まずは「問い合わせを数える」ところから

AIエージェント導入を考えるとき、

いきなりシステムを作る必要はありません。

まず1週間、

「誰が、誰に、何を聞いているか」

を記録するだけでも十分です。

例えば、

製品仕様 25件
納期確認 18件
社内ルール 14件
マニュアル検索 12件
在庫確認 10件

となれば、

どこからAI化すると効果が高いかが見えてきます。

Regal Rexnordでは月2,000件以上の社内問い合わせをAIが処理し、年間約2,400時間を削減しています。

しかし重要なのは「2,400時間」という数字そのものではありません。

毎日数分ずつ発生していた情報探しを、会社全体から減らした

ことです。

これは会社規模に関係なく考えられる改善です。

「探す・聞く・待つ」が多い業務はAI化できるかもしれない

問い合わせ対応には、

質問する時間だけでなく、

探す

分からない

詳しい人へ聞く

相手が調べる

返信を待つ

という時間が含まれています。

AIエージェントが得意なのは、

この中の、

探す・調べる・整理する

部分です。

すべてをAIへ任せなくても、

問い合わせの半分をAIが一次対応するだけで、現場の負担は変わります。

もし社内で、

「それ○○さんに聞かないと分からない」

「資料がどこにあるか分からない」

「同じ質問に何度も答えている」

という状況が多いのであれば、AI活用を検討できる可能性があります。

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