介護記録を毎朝全部読む必要はある?AIエージェントで申し送り・注意事項確認を効率化する方法
介護現場では、申し送りや記録確認に多くの時間が使われています。
夜勤中の出来事、転倒、服薬拒否、体調変化、家族からの連絡、ヒヤリハット。
利用者の安全を守るためには重要な情報ですが、管理者が毎朝大量の記録を読み、「今日注意すべき利用者は誰か」「何を優先して確認すべきか」を人力で整理している施設も少なくありません。
この業務をAIで支援している事例があります。
オーストラリアの大手高齢者介護事業者Regis Aged Careでは、AIアシスタント「RegiCare Assist」を導入し、介護・看護記録の確認作業を効率化しています。
同社のClinical Care Managerは、以前は勤務開始時に最大80ページもの経過記録を読み込むことがありました。
現在はAIが記録を読み、重要な情報を整理して提示します。
単にChatGPTへ質問するだけではありません。
「大量の記録から、今日注意すべきことを探し出す」
という業務そのものをAIに手伝わせている事例です。
海外事例:毎朝最大80ページの介護記録を読んでいた
Regis Aged Careは、オーストラリア国内で72の高齢者介護施設を運営する大手事業者です。
同社のClinical Care Managerは、その日の業務を始める前に、前日から夜間にかけて記録された利用者の経過記録を確認します。
その量は、多いときには最大80ページ。
そこから、
- 転倒した利用者はいないか
- 薬を拒否している人はいないか
- 痛みや感染症の兆候はないか
- 状態が悪化している人はいないか
- 終末期に近づいている人はいないか
- 今日優先して対応すべきことは何か
といった情報を探します。
つまり、ただ文章を読むのではありません。
大量の文章を読みながら、
「これは重要か」
「今日対応が必要か」
「誰に共有すべきか」
を判断する必要があります。
Microsoftが公開している事例では、こうした確認作業に以前は数時間かかる場合があったとされています。
Regisでは2025年9月からAIアシスタント「RegiCare Assist」を導入しました。
現在は約150人のスタッフが利用しています。
元記事:
Microsoft「At aged care provider Regis, AI takes on paperwork so staff can focus on residents」
また、CIOへのインタビューでは、導入前にClinical Care Managerが「勤務開始時に最大80ページの記録を読んでいた」ことが紹介されています。
AIは何をしているのか
RegiCare Assistの仕組みは比較的分かりやすいものです。
AIが介護・看護記録を読み、
- 緊急性の高い臨床上の懸念
- 状態の変化
- 興奮や行動変化
- 痛みの兆候
- 感染症の兆候
- 排便状況
などのカテゴリーに整理します。
例えばある施設では、その日の24時間レポートが68ページありました。
その記録をRegiCare Assistへ読み込ませることで、数分後には約3ページの臨床イベントのサマリーとして確認できたと紹介されています。
もちろん、元の記録が消えるわけではありません。
AIが、
「まずここを確認してください」
という入口を作っています。
介護現場で考えると、こういう流れになる
例えば前日の介護記録が次のように蓄積されているとします。
利用者A:
夜間にベッド横で転倒。外傷なし。看護師確認済み。
利用者B:
夕食後の服薬を拒否。30分後に再度声掛けしたが拒否。
利用者C:
昨日から咳あり。夜間37.8度。
利用者D:
特記事項なし。
これを人がすべて読み、
「Aさんは転倒後の確認」
「Bさんは服薬状況確認」
「Cさんは体調確認」
と整理しているのであれば、その一次整理をAIに担当させることができます。
AIの出力イメージは、
本日確認が必要な利用者
Aさん
- 夜間転倒あり
- 外傷なし
- 本日、状態変化の有無を確認
Bさん
- 服薬拒否あり
- 複数回の声掛けでも拒否
- 本日の服薬方針確認が必要
Cさん
- 咳あり
- 夜間37.8度
- 感染症・体調悪化に注意
といった形です。
人は、この一覧から確認を始められます。
ポイントは「介護判断をAIに任せる」ことではない
この事例で非常に重要なのが、
AIに臨床判断を任せていない
ということです。
Regis側も、AIはスタッフを支援するものであり、臨床上の判断や意思決定を置き換えるものではないと明確にしています。
介護や医療に関係するAI活用では、この線引きが重要です。
例えば、
「この利用者は病院へ搬送すべきです」
とAIに最終判断させるのではなく、
「昨夜から発熱と咳があります。確認してください」
と情報を整理して提示する。
そして、
- 状態確認
- ケア方針変更
- 服薬判断
- 医療機関への連絡
- 家族への連絡
などは人間が判断します。
AIが得意なのは、
大量の情報を読むことと、見落としを減らすための整理
です。
ここを任せるだけでも、十分大きな業務改善になります。
なぜ「AIチャット」ではなく、AIエージェントなのか
単純な生成AI活用であれば、
「この文章を要約してください」
でも実現できます。
ただ、実際の業務では毎日同じ作業が発生します。
例えば、
- 前日分の記録を取得する
- 利用者ごとに整理する
- 注意事項を抽出する
- 重要度を分類する
- 朝会用にまとめる
- 必要に応じて担当者へ通知する
という流れです。
ここまで仕組み化すると、単なるチャットではなく「業務を処理するAI」に近づきます。
将来的には、
介護記録システムから前日分を自動取得
↓
AIが内容を分析
↓
要注意利用者を抽出
↓
朝会用レポート生成
↓
管理者が確認
という流れも考えられます。
Regisも今後、既存のケアマネジメントシステムと直接連携し、現在必要となっている24時間レポートの手動アップロードをなくす方向を検討しています。
つまり、
人がAIにデータを渡す段階から、AIが必要な情報を自分で取得する段階へ進もうとしている
わけです。
実際の導入では「自由入力させすぎない」という工夫も重要
Regisの事例でもう一つ興味深いのが、操作方法です。
RegiCare Assistでは、スタッフが自由に質問するだけではなく、
- 臨床トレンド
- 興奮
- 痛み
- 感染症
など、よく使う用途ごとに9つのアイコンを用意しています。
利用者はアイコンを押すだけです。
その裏側では、かなり詳細なプロンプトが設定されています。
これは介護だけでなく、企業向けAIシステム全般で参考になります。
自由に質問できるようにすると便利に見えますが、
「どう質問すればいいか分からない」
という問題が起きます。
さらに、質問の仕方によって回答品質が変わることもあります。
そのため、
業務ごとに使い方を固定する
という設計が有効です。
例えば、
「昨日の要注意利用者」
「転倒・ヒヤリハット」
「服薬に関する注意」
「発熱・感染症」
「家族連絡が必要な事項」
などのボタンを作る方が、現場では使いやすい場合があります。
AIだからといって、最初から完璧ではない
Regisでは、AI導入時に「情報を取りこぼさないか」という点をかなり検証しています。
Microsoftの記事では、プロンプトの表現によっては対象者が結果から抜け落ちるケースもあり、表現を調整しながら精度を高めていったことが紹介されています。
ここはAI導入で非常に重要なポイントです。
AIシステムは、
「作ったら終わり」
ではありません。
特に介護のように見落としが重大な問題につながる業務では、
- 実際の記録でテストする
- 人間の判断結果と比較する
- 抜け漏れを調べる
- プロンプトを調整する
- 利用範囲を明確にする
といった検証が必要です。
いきなり全自動化するのではなく、
人が確認する前提で導入する
方が現実的です。
日本の介護施設でも応用できるのか
Regisは大規模な介護事業者ですが、考え方自体は中小規模の介護施設でも応用できます。
むしろ最初から大規模なAIシステムを作る必要はありません。
例えば最初は、
ステップ1
昨日の介護記録をPDFやExcelでAIへ読み込ませる
ステップ2
「今日確認すべき利用者」を抽出する
ステップ3
人が元の記録と照合する
これだけでもPoC(実証実験)になります。
効果が確認できたら、
ステップ4
介護記録システムと連携する
ステップ5
毎朝自動でサマリーを作る
ステップ6
必要な担当者へ通知する
と段階的に進められます。
こんな施設では検討しやすい
特に次のような状態であれば、AI活用を検討する余地があります。
- 毎朝大量の申し送り記録を読んでいる
- 管理者しか記録を整理できない
- 夜勤から日勤への情報共有に時間がかかる
- 記録はあるが重要情報を探すのが大変
- 朝会資料を毎日手作業で作っている
- ヒヤリハットや状態変化を後から探している
重要なのは、
「AIを導入したい」
から考えないことです。
まず、
毎日どの作業に時間がかかっているのか
を探します。
その中に、
読む、探す、まとめる、分類する、照合する
といった作業が大量に含まれていれば、生成AIやAIエージェントが向いている可能性があります。
AIエージェント導入で見るべきポイント
介護分野で同様の仕組みを作る場合は、特に次の点を慎重に設計する必要があります。
個人情報の取り扱い
介護記録には、氏名、健康状態、服薬情報など、非常に重要な個人情報が含まれます。
一般向けAIサービスへそのままコピーするのではなく、データの保存方法、AIモデルの利用条件、アクセス権限などを確認する必要があります。
Regisの事例でも、利用者情報を守るため、セキュアな環境内でデータへのアクセスと共有を制御しています。
AIの役割を限定する
AIは「判断者」ではなく、
- 情報整理
- 注意事項抽出
- 要約
- 検索
などから始める方が安全です。
元情報を確認できるようにする
AIが出した結果だけを見るのではなく、
「この情報はどの記録から抽出したのか」
を確認できる仕組みが望ましいでしょう。
AI活用の目的は「記録を減らすこと」ではない
介護記録そのものは必要です。
重要なのは、
記録した情報を、人が再び全部読む作業を減らせないか
ということです。
介護現場では、人材不足が大きな課題になっています。
だからこそ、
ケアそのものをAIへ任せるのではなく、
人が利用者と向き合うための時間を増やすためにAIを使う
という考え方が重要になります。
Regis Aged Careの事例は、その非常に分かりやすい例です。
AIが80ページの記録を読む。
重要な内容を整理する。
そして、人間は利用者を見る。
AIエージェント活用は、このような「裏方業務」から始めると実用化しやすいのかもしれません。
あなたの業務にも「毎日大量に読む仕事」はありませんか?
今回紹介したのは介護の事例ですが、
- 日報
- 点検記録
- 問い合わせ履歴
- 営業報告
- クレーム
- 品質記録
- 作業報告書
など、他の業種にも似た業務はあります。
「記録すること」ではなく、
大量の記録を人が毎日読み直していること
がボトルネックになっている場合、AI活用を検討できる可能性があります。
まずは現在の業務が、AIやシステム化に向いているかを整理してみることをおすすめします。
8問・約2分の「業務改善セルフチェック」では、現在の業務について、AI活用やシステム化を検討する余地があるかを簡単に確認できます。
まだ対象業務自体が決まっていない場合は、30分のオンライン相談で、日々の業務から改善候補を一緒に洗い出す方法もあります。